5年ぶりに田舎に帰る。
終着駅に近づく高速バスの窓の外に広大な田園風景が流れる。
ここにいた頃は、遠くばかりを見ていた。
「ここではないどこか」
だいぶ大人になったつもりだけど、
ひょっとすると今もそんな傾向があるだろうか。
カメラを持って実家の近くをぶらぶら歩く。
記憶という「私の物語」を反芻しながら。
久しぶりに見る景色は、まるで違うようにみえるだろうか?
という思惑があったのだけど、特にそんなことはなかった。
佇むあぜみちの先には、何かの野菜の種を蒔く父が見え、
土くさい風が生暖かかった。
ファインダーを覗くと「どこか」でない「ここ」があった。
今、ここに在ること、それで全部。
距離感がふらふらと揺らいで、シャッターを押した。
ただ掬い取りたい。あるいは解き放ちたい。
たとえ不遜な願いとしても。
そうしてシャッターを押すたびに、
「私の物語」は希釈され、広いひろい世界の中に拡散して行く。
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